掃き溜め(笑)

掃き溜め(笑)

歯医者(笑)

歯医者に通っている。

 

というのも、以前治療して銀歯になった箇所が痛み続けるため仕方なく重い腰をあげて自らを鼓舞し戦いの舞にひとしきり陶酔した後、渋渋と歯医者に掛かってみたところ、銀歯の大部分が神経を喰っているとお知らせされたからだ。元来、歯医者が苦手だとかそういう類のジャリボーイではないのだが、億劫なものは億劫だ。純粋にダルい。

 

俺は歯医者の待合室で歯抜けの「カンナさん大成功です」を読みながら自分の名前が呼ばれるのを待っていた。大抵いつもは「安倍さ~ん」と呼ばれるが、幼少から俺の名前を覚えている歯科衛生士には「晋三く~ん」と呼ばれる。つい先日も「ペッしていいよ」と言われ、このババアは俺を何歳だと思ってるんだ、まさか俺のこと好きなのか、と思わされる場面があったので、授業参観当日に自分の親の存在を第六感で探るのと似た気持ちになる。

 

「晋三く~ん」

 

このババアは俺のこと好きなのか。

 

 

治療台に座るとすぐに院長が来た。経過はどうか、痛みはないか、親の職業は何か、住所の旧称は何か、スリーサイズ、好きな異性のタイプ、ぶっちゃけ院長とヤれるか等を聞かれ、儀式に近いな、とは思いつつもそれぞれに回答した。

 

「じゃ、見ていきますね~ 椅子倒しますよ~」

 

ここで、いつも大体270度くらい倒されるので、

インナーマッスルを鍛えるにはもってこいだ。

 

「薬塗りますよ~」

 

院長は傍の棚から茶色の小瓶を出し、蓋を開けた。

 

「あれ~? この匂いなんですかね? 何か変な匂いしますか?」

 

「いや、僕は分からないです(え、何?どういうこと?)」

 

「まっ、普通の薬の匂いか」

 

ポンポン 

 

(え!? この流れでそんな容赦なく塗る? マジかよ)

 

 

しばらく経つと院長がゴソゴソし始めたので、急にサカったのかと思い、性の喜びを知りやがって、などと考えていたが、歯の詰め物を作成していただけだったようで安心した。

 

「あのですね~ この詰め物は火で温めるんですよ~ 安倍くんもアルコールランプ使ったことある? 僕もね~ 今使ってますよ~」

 

「へぇー(うがいしたいな)」

 

「やっぱりね~ 子供のうちはマッチが難しいんだよね~ 僕はもう大人だから慣れたけどね」

 

「はぁ(早くうがいしてぇ~~~)」

 

「じゃ 一回椅子上げますよ~」

 

(やっとうがいできるぅぅうう!!!)

 

グチュグチュペッ

 

「あ うがいしちゃいました? やりなおしですね~」

 

(ああぁぁぁあああぁああ やらかしたぁぁあああ 次からはうがいしてって言われたらうがいしよ)

 

それから大体5万年間、何度もうがいのタイミングは訪れたが、うがいしていいよの合図がないので結局、唾液が溜まりに溜まった指示待ち人間、つまり命令に忠実な唾液爆弾が出来上がってしまった。

 

 

そんなこんなで治療は終わり治療台から立ち上がった。

器具の端っこにアルコールランプがあるのが見えた。

横には比喩でなく燃え尽きていないマッチ3本とライターが置いてあった。

 

いや、マッチ ミスってるやないかい。