掃き溜め(笑)

掃き溜め(笑)

警察(笑)

小2の冬。

友達のS君と一緒に公園で遊んでいた俺は、二十代後半であろう風貌のトレンチコートがよく似合う男に声をかけられた。

 

「ねぇ、君たち、〇〇小学校(俺とS君の通う学校で公園から最も近い学校)の子供かな?」

 

男はトレンチコートの内ポケットに手を入れ、細くて黒い財布大の何かを取り出した。

 

「こういうものなんだけど。」

 

黒い折りたたまれたソレは警察手帳だった。上半分には精悍な顔つきでこちらを見つめる制服姿の男が、下半分には眩しく光る逆三角形の記章があった。

 

「君たちは、Yっていう人を知ってるかな?」

 

俺とS君は初めて見た生の警察に興奮をしていた。目の前にいるカッコいいお兄ちゃんが警察で、手帳を見せるときのお決まりのセリフを聞くことが出来て、漆黒の手帳と金色を湛えた記章を見た。この事実は俺達に急造の正義感を抱かせ、小さな2人の正義漢に作り変えるには十分だった。

 

「知ってます!Y君は、僕たちと同級生で、あのコンビニの向かいのアパートの二階に住んでます!」

 

「何号室かわかるかな?」

 

「ええと、確か3号室だったと思います!ニイマルサンです!ニイマルサン!」

 

「ありがとう。助かったよ。」

 

男は敬礼をしてその場を去った。おれとS君は自分達の善行を誇りつつ、家路についた。

 

俺は帰るなり今日の出来事を母親に告げた。大体半分くらい話したところで、

 

「多分それ、警察やないんやない?だって知り合いに警察の人おるけど、子供には事情聴取せんって前に言いよったよ。あんたら、そのY君の個人情報漏らしたわ。」

 

こう告げられた俺はなぜか妙に腑に落ちて、自分達の浅い行いをすぐに反省した。翌日、S君もS君の母親から同じことを言われたと知った。とりあえず2人で反省と称してその日は遊ばずに静かに過ごすことにした。

 

そしてその二週間後。

Y君が引っ越した。突然の決定だったらしく、お別れ会やメッセージカードの作成なども行われなかった。友達であったので悲しかったが、子供の力ではどうすることも出来ないので数人の友達と手紙を書いて先生に預けた。

 

その手紙を受け取った先生は住所が分からないかもしれないと言っていたので、みんなでお願いをしてその日を終えた。

 

それから四年経った小6の冬にある噂を耳にする。実は、Y君の家庭は借金返済に悩まされていたらしい。その噂はどこから発生したのか、そもそも真実なのか。それは分からない。そして、あの冬に見た幻影が悪魔であったのか、そして小さな正義は絶望の引き金を引いてしまったのか。少なくとも俺には分からない。